坂本堤弁護士一家殺害事件 -2-

これは「坂本堤弁護士一家殺害事件」に関する記事の【パート2です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

坂本堤弁護士一家殺害事件 -1-


 

坂本さん一家殺害の計画は、ある出来事がきっかけとなり、教団内で浮かび上がることになる。
それは―、『TBSビデオ問題』。

 

TBSビデオ問題

1989年(平成元年)当時、すでに『サンデー毎日』の「オウム真理教の狂気」といった特集などで批判の的となっていたオウム真理教。
そうした中、
TBSの取材班は同年10月26日の午前中、反オウムの筆頭であった坂本さんにインタビューをした。
続いて同日の昼頃、取材班はオウム真理教富士山道場へ赴き、そこで教祖・麻原による「水中クンバカ」の実演を取材。

オウム真理教富士山道場に詰めかけた取材陣
(1989年10月26日)


ところが、このとき麻原は自ら水中クンバカを実演することはなく、これを幹部の井上 嘉浩にさせた。自身はその傍らで佇むだけで、取材陣の期待を見事に裏切ってみせた。
尚、自ら水中クンバカを実演しなかった理由として麻原は、「毒ガスが入っていた」などと意味不明なことを言ってのけた。

さらには、約5分30秒間も潜った井上に対して、「何を怖がってんだよ」と責め立てる。こうして自分は出来もしない5分半もの息止めを非難することで、”自分はもっとできる”ということを取材陣に誇示した。

井上に何か諭している様子の麻原

井上に被されているのは「酸素テント」。潜る前にこのテントの中で深呼吸をする。
傍らには麻原が佇む。

水中の井上に念を送るような仕草をみせる新実(左)と岡崎(右)

 

なんとも煮え切らない水中クンバカの取材を終えた後、取材陣は麻原のインタビューを開始。ところがこれが紛糾。その中で教団側は取材陣に対して、その日の取材をもってどんな放送をするのかと問い詰めた。
その結果、その日の午前中に行われた坂本さんのインタビュー(以下:ビデオ)と併せ、翌27日のワイドショー番組『3時にあいましょう』で放送する予定であることを知った教団側は、異常なほどの反応をみせた。そして、放送前にビデオの内容を自分らに確認させることを執拗に求めた。
これにより教団側と取材陣はその場で押し問答となったが、最終的に取材陣は教団の要求を呑み、その場の事態を収拾した。

そしてこの日の深夜―、
ビデオチェックのため、早川 紀代秀、上祐 史浩、そして教団の顧問弁護士・青山 吉伸らがTBSを訪ねる。そこで早川らは問題のビデオを視聴。

そのインタビューの中で、坂本さんは以下のように語っていた―、

「信者家族の苦しみが置き去りにされている」

「宗教を利用したインチキ商法になっているのであれば断罪されるべき」

「尊師に超能力で跳んだり透視するのを実演してほしいと頼んだが、それはできないとのことだった」

血のイニシエーションは詐欺」

結果、ビデオを観た幹部らはその内容に憤怒、その場で激しく抗議した。これを受け、TBS側はこのビデオを放送しないと約束。そして、幹部らはその場を後にした。

 

TBSでビデオを観て、その中で坂本さんが教団を相手取って訴訟するつもりであることを知った教団幹部ら―。
そこで10月31日、上祐と早川、青山が神奈川県横浜市にある坂本さんの勤める法律事務所を訪ね、訴訟回避のための交渉を行った。
ところが坂本さんは、麻原のDNA培養物を高額で売りつける「DNAのイニシエーション」はインチキであり、京都大学が認めたなどと謳っているがそのような事実はなかったと指摘。これに対し、上祐が「信教の自由がある」と説き伏せようとするも、「人を不幸にする自由などない」と、坂本さんに一刀両断された。
訴訟回避のために訪れた上祐ら3人であったが、交渉は決裂。それどころか、訴訟への強い意志をまざまざと突きつけられたのであった。
やがて坂本さんは、教団に対する宗教法人の認可取り消しなどを求める訴訟準備に入った。また、「オウム真理教被害者の会」も教団に対して、水中クンバカや空中浮遊を公の場で行うように要求するなど、坂本さんと共に強硬な姿勢をみせていた。


『TBSビデオ問題』とはつまり―、

当時、TBSが教団幹部にビデオを観せたことが明るみになると、「情報源の秘匿」というジャーナリズムの原則に反し、報道倫理を大きく逸脱するとして激しく批判された

これと併せて、教団側の要求に応じ、TBSが放送前のビデオ(坂本さんのインタビュー映像)を教団幹部らに観せてしまったことが坂本さん一家殺害に起因した”という非難もあった。これを噛み砕くならば要するに、“ビデオを観た幹部らがその内容に怒りを覚え、その内容を麻原に報告。これを受けた麻原が坂本さんの殺害を指示した”ということである。

尚、筆者は「TBSが幹部らにビデオを観せたせいで坂本さん一家が殺害された」という当時の世論とは、意見を異にする。
その主な理由は―、”どうせ観られていた”から。
要するに、放送前にビデオを幹部らに観せなかったとしても、どのみち放送で観られていたということである。
幹部らに観せた映像が未編集であったのか否かは不明だが、仮に編集済みであったなら何の問題もない(放送されるものと同じなのだから)。また仮に未編集であったにしても、反オウムの機運が高まっていた当時を考えれば、坂本さんのオウムに対する過激な発言部分はカットせずに使われるはずである。

TBSは元々、ビデオを放送するつもりであったのだから、これを事前に観せようが観せまいが同じこと。つまり、”TBSが幹部らにビデオを観せたから、坂本さん一家が殺害されたとはいえない”、筆者はそう考える。

また、このときの幹部らのように、当時は取材対象者から”取材テープを確認させてくれ”という要請に応じることは多くの放送局で行われていた。
これに加え、当時は個人情報保護法などなかった時代であり、放送前の映像を個人的に観せることは違法行為ではなかった。当時は情報管理に対する意識が現代とは大きく異なっていた時代である。

 

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坂本さん一家殺害へ

反オウムの弁護士、坂本 堤。大きな影響力を持つ正義のリーダーは、教団を脅かす邪魔な存在であった。故に教団としては、敵ともいえる坂本さんを野放しにするわけにはいかなかった。
こうして1989年の末葉には、坂本さん側と教団の間にある種の緊張状態が生まれていた—。

 

そうした中にあった同年11月2日―、
麻原は教団幹部の早川 紀代秀、村井 秀夫、岡崎 一明、新実 智光、中川 智正を第1サティアンに集め、「今の世の中は汚れきっておる。もうヴァジラヤーナ*を取り入れていくしかないんだから、お前たちも覚悟しろよ」と言い放った。
*教団が殺人を正当化するために用いた教義

さらに麻原は、「今ポアしなければいけない人物は誰だと思うか」と幹部らに問う。
(このとき麻原は”ポア”を意味する「親指と人差し指で輪を作ってこれをはじくサイン」をした)

そして麻原の「ポアすべきは誰かという」質問に対して、幹部らからは「坂本です」という答えが返された。
幹部らから自身の望む回答を得た麻原は、焚きつけるように「坂本をポアするんだよ」「ポアするんだよ、ポア」「坂本は話しても無駄だから、ポアするんだ」などと言ってきかせた上で、坂本さんを塩化カリウムで殺害するように指示した。尚、坂本さん殺害の基本方針は、”帰宅時を狙って坂本さんを拉致、そして塩化カリウムを注射”というものであった。
(この塩化カリウムであるが、このときすでに教団は所有していた。これは中川がかつて勤務していた「大阪鉄道病院」から盗んだほか、村井が独自に入手していたものであった)
(殺害のターゲットについては、坂本さん同様に教団が目の敵にしていた『サンデー毎日』の編集長・牧 太郎の名が最初に出たともいわれている。しかし、編集長で多忙な牧氏は帰宅時間が定まらないことから、結果として坂本さんがターゲットとなった)

そして坂本さん殺害に向け、幹部らは殺害チームを構成。その中で、腕力のある人材が必要ということになる。そこで、空手に心得のある”肉体派”・端本 悟をチームに加えた。
その後、チームは熊本に在住の在家信者に坂本さん宅の住所を電話で聴きだし、これで準備が整う。
(この在家信者は弁護士であり、職業ネットワークを使って坂本さんの個人情報を入手。この時代は個人情報保護の観念など、無きに等しかった時代である)

 

11月3日午前9時頃―、
チームは「日産・ブルーバード」と「いすゞ・ビッグホーン」に分乗し、神奈川県横浜市にある坂本さん宅へ出発した。
途中、一行は東京都杉並区にある教団マンションに立ち寄り、交信用の無線機を2台、それと変装用のカツラやメガネなども持ち出す。ここで新実はアフロ、村井は長髪、岡崎は七三分けに伊達メガネを身につけた。
さらにこの後、新宿にも立ち寄り、スーツなどを買ってさらなる変装を施す。そしていよいよ、坂本さん宅のある横浜市へ向かった―。


ポアへのカウントダウンが進む。その悪夢は【パート3】にて。


【水中クンバカ】
教団の数ある修行のひとつ。
呼吸を数分間止める修行『クンバカ』の派生形。クンバカを水中で行うため、必然的に息を止めることになる。インチキはできない。
教団内では「水中クンバカ大会」なるものが何度か開催された。最高記録は14分といわれているが、これはかなり怪しい。


【血のイニシエーション】
教団の修行の中でも、”霊的エネルギー”を注入する修行のことを『イニシエーション』といった。
教団関係者にいわせれば、「”教祖・麻原 彰晃のエネルギーを込めることのできる物体”を与えたりすること」をイニシエーションということらしい。意味不明である。

『血のイニシエーション』は、麻原の血液入りの液体を飲むイニシエーション。100万円以上の布施をすることでこれを受けることができた。


【塩化カリウム】
アメリカの薬物による死刑執行時に使用される。そのほか、動物の安楽死の際にも使われる。
味は苦く塩辛い。


【東京都杉並区の教団マンション】

教団が借りていたマンション(東京都杉並区)

 「カーサ上荻」
東京都杉並区上荻2丁目29-15


JR中央本線 / 荻窪駅 徒歩7分
東京メトロ丸の内線 / 荻窪駅 徒歩7分
築年数:1983年7月
建物構造:RC(鉄筋コンクリート), 3階建て
参考賃料:5.5万円~6.2万円
間取り:1K

間取り一例

 

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