グリコ・森永事件 -3-

これは『グリコ・森永事件』に関する記事の【パート3です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

グリコ・森永事件 -1-

グリコ・森永事件 -2-


 

森永製菓脅迫事件

1984年(昭和59年)9月12日、大阪府大阪市の「森永製菓」関西販売本部に脅迫状が届く。
これには—、

「グリコと同じ目にあいたくなければ、1億円出せ」

「要求に応じなければ、森永製品に青酸ソーダを入れて 店頭に置く」

と書かれた上、青酸ソーダ入りの森永菓子が同封されていた。
(脅迫文には、グリコが犯人グループに6億円を支払ったとも書かれていたが、そうした事実はない)

9月18日、森永の関西支社に犯人からの電話が入る。
電話口では子どもの声で現金の受け渡し場所、日時が指示された。この音声もまた録音であり、通話の中ではこの音声が5回繰り返された。
その後―、
現金受け渡し人が犯人指定の場所へ行くと、別の指定場所へ行くよう指示が入る。そしてそこへ現金を置くも、犯人は姿を現さなかった。
(電話口の子供の音声であるが、これを録音した団地、部屋までは特定されている)

 

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二府二県青酸入り菓子ばら撒き事件

10月7日から13日にかけて、大阪府、兵庫県、京都府、愛知県のスーパーやコンビニから不審な森永製品が相次いで発見される。
それらは見た目に明らかで、「どくいり きけん たべたら 死ぬで かい人21面相」と書かれた紙が貼られており、実際にその菓子には青酸ソーダが混入されていた。この青酸入り菓子は計13個発見された。

 

尚、この間の10月8日には、阪急百貨店などにも脅迫状が届き、森永製品を店に並べないよう要求された。
また、この脅迫状には—、

「わしらに さからいおったから 森永つぶしたる」

と更なる犯行の予告ともとれる一文が記されていた。

 

さらに10月15日、NHK大阪放送局に青酸ソーダ入りの錠剤が送りつけられる。
また、新聞各社には”錠剤”が同封された挑戦状が届き、その中で犯人らは”この錠剤で何人殺せるか”というクイズを出題。正解者への賞品には「青酸入りの森永製品」とし、宛先は「刑死ちょう そうむ部きかく課長まで
」と記されていた。

 

ハウス食品脅迫事件

11月7日、「ハウス食品工業」(現:ハウス食品グループ本社)の総務部長宅に脅迫状が届く。
同様の脅迫状は社長の浦上 郁夫(当時)にも届き、その内容は「現金1億円の要求」、「受け渡し日は11月14日」、「指定場所は京都府伏見区内のレストラン」というものであった。
また、浦上の元には別の脅迫状も送りつけられており、これには青酸入りのハウスシチューが同封されていた。
こうした事態を受け、大阪・京都の両府警は合同捜査本部を設置した。

11月14日、現金受け渡し当日―、
指定されたレストランの駐車場には1億円を積んだ車を待機させ、車内にはハウス食品の職員に扮した大阪府警察本部特殊事件係の捜査員が、周囲には京都府警察本部刑事部の捜査員が多数配置された。
20時20分、犯人からの電話が総務部長宅に入る。この通話でも録音された女の子の音声が流され、受け渡し場所の変更が伝えられた。これを受けて合同捜査本部は大阪・京都に捜査官を多数配置。
そして―、
新たな指定場所ではメモが残されており、これには別の指定場所が書かれていた。こうした指定場所の変更は4回も繰り返された。

こうした犯人とのやりとりの間―、
名神高速道路の「京都南インターチェンジ」付近で警戒体制をとっていた京都府警の捜査員が、キツネ目の男を発見。すぐさま合同捜査本部にこれを報告する。

名神高速道路 (赤いライン):愛知県小牧市と兵庫県西宮市を結ぶ高速道路。岐阜県、滋賀県、京都府、大阪府を横断する。

 

京都南インターチェンジ

 

キツネ目の男―、
実はこの日、「大津サービスエリア」(滋賀県)でも滋賀県警の捜査員によって目撃されている。
この日(11月14日)もそうであるが、6月28日(丸大食品脅迫事件)というように、現金の受け渡し日にその関係各所で目撃されていることを考えれば、いうまでもなくその嫌疑は極めて大きかった。

「大津サービスエリア」でキツネ目の男を目撃した捜査員が作成した未公開の似顔絵

 

この日、大津サービスエリアでのキツネ目の男は、尾行を恐れて周囲を警戒するような挙動をみせ、ベンチに何かを貼り付けるといった特異動向があったのにも拘らず、その場にいた滋賀県警捜査員は尾行や職務質問をすることができず、後ろ髪を引かれるような思いで撤収した。
(尚、このとき滋賀県警捜査員らが職務質問できなかったのは、合同捜査本部(大阪・京都府警)による指示があったためである。この日、滋賀県警本部には合同捜査本部から捜査共助を要請されていたが、「名神高速道路エリア内は大阪府警の捜査員を配備するため、名神高速道路内には立ち入らないように」と言われていた。ところが、滋賀県警本部は突発的な事態に対応するために捜査員2人を大津サービスエリアに配置していた)

 

“大津サービスエリアにて、キツネ目の男を発見した”

滋賀県警捜査員の報告を受け、大津サービスエリアへ現金を乗せた車と大阪府警捜査員らが急行。
到着後、捜査員らは停車させた現金車をしきりに気にする様子の不審な男に気付く。その男の顔を確認すると、それはキツネ目の男であった。
しかしこのときの大阪府警捜査員らも、尾行および職務質問をする権限を与えられておらず、男がその場を立ち去るのを見送ることしかできなかった。

その後―、
犯人の指示を受け、現金車は「草津パーキングエリア」へ向かう。

 

現金車が草津パーキングエリアに到着すると、犯人からの連絡。
そして指示が入る―、

「名古屋方面へ走り、白い布がみえたら、白い布の下に置かれた缶の中を確認しろ」

これを受け、現金車は名古屋方面に走行しながら、白い布を探す。ところがそれは、道路管理局によってすでに発見・回収されていた。
道路管理局の巡回記録によると―、
白い布が見つかったのは、草津パーキングエリアから名古屋方面へ約5kmの地点。道路脇の防護フェンスに取り付けられていた。これは20時50分から21時18分のおよそ28分間の間に取り付けられたものと判明している。
ちなみに白い布の地点付近には、無線通信が不能な場所があった。そのため、合同捜査本部にとってその場所は連携を妨げる不都合なポイントであった。さらに、この地点は名神高速道路と県道117号川辺御園線が交差する地点であったため、合同捜査本部はこれらの交差地点を封鎖したが、成果を得ることはできなかった。

尚、問題の缶であるが、白い布の地点周辺で見つかることはなかった。同時に、それから犯人からのコンタクトが途絶え、この日の22時20分に捜査は打ち切りとなった。
ところが―、

 

『県道117号川辺御園線』
上には「名神高速道路」が走っている。

 

合同捜査本部が白い布に翻弄されていたちょうどその頃―、
名神高速道路上の白い布の地点、その下を通る県道117号川辺御園線で、滋賀県警のパトカーがパトロールをしていた。
このパトロールに当たっていた警官3人は、この日の事件捜査を知らない県警職員であり、偶然その周辺を走行していた。すると、パトカーは停車中の不審な白のライトバンを発見。暗い夜間、暗い車内には人の影がみえた。
警官らは職務質問するために白のライトバンに駆け寄り、車内を懐中電灯で照らす。すると運転席には挙動のおかしな男がいた。そこで警官らが声をかけようとすると、車は急発進。警官らは直ちに白のライトバンを追跡した。2台の車は激しいカーチェイスを繰り広げた末、白のライトバンがとうとうパトカーを振り切った。
その後の21時25分頃、白いライトバンが発見されたが車内に男の姿はなく、車は乗り捨てられていた。警察がこの車両を調べると、それはこの日の2日前となる11月12日に盗難された車両であることが判明した。

この白のライトバンに乗っていた不審な男であるが、「時間」「場所」「挙動」といった要素から、犯人グループのひとりである可能性が濃厚とみられている。
つまり、事件捜査とは直接的に関係のなかったこの警官3人は、図らずも本事件犯人の尻尾を掴みかけたということになる。

 

11月19日ハウス食品の課長宛てに脅迫状が届く。
この脅迫状には、11月14日の合同捜査本部の様子が記されていた(名神高速道路での現金受け渡しの様子)。つまりこれは、その日犯人らは現金の受け渡し場所にいたということを意味しており、現金車をずっと監視していたことが窺える。
また、”いまは森永を相手にしている”ということが書かれていたほか、”暇になったら連絡する”とも書かれていた。これは事実上の終息宣言とも受け取れ、実際その後にハウス食品を標的とした事件が起きることはなかった—。

 

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『グリコ・森永事件』ここまでの所感 -2-

※ここでは、本編(1984年9月12日「森永製菓脅迫事件」から11月12日「ハウス食品脅迫事件」まで)の所感を記しています。以下はあくまで筆者個人の見解です。

 

「森永製菓脅迫事件」―、
このときの脅迫文で犯人らは、森永に1億円を要求した上で”グリコは6億円支払っている”という事実と反した一文を添えている。
この言葉の意図するところは―、

“グリコは6憶円支払ったぞ。さあ、どうする?”

“お前たちは1億円、安いじゃないか”

そう煽り立て、現金の支払いに応じさせようということであると推察できる。

 

続く「二府二県青酸入り菓子ばら撒き事件」では、犯人らは青酸入りの森永製品を小売店の売り場に忍ばせているが、それらにはご丁寧に”食べたら死ぬぞ”という注意書きを貼り付けている。
その犯行様式からは、犯人らの”人は殺したくない”、”無差別的に攻撃したくない”、”ターゲットは大衆ではなく企業”という心情や姿勢が読みとれる。

そして、その後に新聞各社へ送った青酸ソーダ入りの錠剤が同封された挑戦状―、

“この錠剤で何人殺せるかな?”

正解者には青酸入りの森永製品を賞品に”

“回答おハガキの宛先は「刑死ちょう そうむ部きかく課長」まで”

というように、犯人企画のクイズショーを展開しているが、これっぽっちも面白くはなく、いうなれば”スベっている”。このように脅迫と併せてゲーム性を持たせる犯行様式は、劇場型犯罪の典型といったところ。

 

続く「ハウス食品脅迫事件」―、
犯人らは3億円を要求、11月14日に受け渡し。この日、キツネ目の男が現場に出没し、各所で捜査員らに目撃されている。一説にはこの日、男は3か所で目撃されていたといわれており、これは明らかに怪しい。なによりこの男は、先の「丸大食品脅迫事件」の際の現金受け渡し日に、犯人の指定する京都行き電車にいた男と同一人物。であるならば、本事件犯人の1人としてもはや決定的ではないだろうか。

 

大阪府警

京都行き電車のとき(丸大食品脅迫事件)もそうであったが、このとき(ハウス食品脅迫事件)もそう。大阪府警が無能ぶりを発揮している。
丸大食品脅迫事件の際、大阪府警は「現金受け渡しの際の現行犯逮捕」に固執。京都行き電車内の捜査員に、キツネ目の男への職務質問はおろか尾行さえも許さなかった。そして、「ハウス食品脅迫事件」における11月14日の現金受け渡しの際も、大阪・京都両府警による合同捜査本部が同様の方針を固めていた。
(大阪・京都府警の合同捜査本部とはいえ、実情は大阪府警主導であったというような印象を抱く)

また大阪府警は当日の捜査協力を要請した滋賀県警に対して、大阪府警の捜査員らを配備しているという理由から、名神高速道路には立ち入らないように指示している。これには、”仕事(犯人確保)は俺たち大阪府警がする。お前らは余計なことはするな”、”手柄は俺たちが立てる”という姿勢がみえてならない。
結果として、滋賀県警は大阪府警の「名神高速道路立ち入り禁止令」を無視して、大津サービスエリア内に捜査員を配備。これが結果として、そこでのキツネ目の男の目撃に繋がっている。ところが大阪府警は、現場の滋賀県警捜査員に尾行・職務質問をさせず、
被疑者(キツネ目の男)が目と鼻の先にいるにも拘らず、これをただただ見送らせた—。

前出の「警察庁広域重要指定事件」が制定された経緯がそうであるが、日本の警察は縄張り意識が強い。
「大阪府警」「京都府警」「滋賀県警」というような各都道府県の警察組織が悪い意味で独立して、どこか閉鎖的。これが日本警察の悪いところである。故に、近年でも複数の都道府県を跨ぐような広域の事件が発生すると、捜査にこうした妨げとなる歪みが出てしまうことがある。
個々ではなく、あくまで”我々は日本警察”という開けた意識を備えていただきたいと思う。

本事件における「丸大食品脅迫事件」(大阪府警)や「ハウス食品脅迫事件」(大阪府警、京都府警、滋賀県警)の現金受け渡し時に共通して悔やまれるのは、『状況の変化に応じて柔軟に対応できなかったこと』。
「ハウス食品脅迫事件」においては、『大阪府警の”オレが、オレが”というある種の個人プレー』である。
それともうひとつ―、

すでにお伝えしたとおり、”白い布”で名神高速道路の捜査員らが騒いでいる間、その下の県道117号川辺御園線で滋賀県警のパトカーがパトロールしていた。このとき警官3人は不審車両を発見し、職務質問をかけている。ところが急発進され、カーチェイスにまで発展した挙句に逃している。
ここで指摘すべきは―、
職務質問をかける際に、『不審車両にパトカーを横付けしたこと』。
本来であれば、逃走を阻むために不審車両の前方を塞ぐようにして(2台の車がTの字になるように)停車させなくてはならない。現に、このときそれをしなかったために逃げられている。
尚、このときパトロールをしていた3人の中の滋賀県警本部長は、不審車両を逃した責任を取るためその後辞職している。

 

犯人らに関して

江崎グリコに要求した3億円を逃してから(6月2日)、犯人グループは金に執着するようになった印象を持つ。
人間の心理として、”もう少しのところで逃す”という経験をすると、逃したそれに対する執着心が湧いてくる。ましてやそれが、3億円という目も眩むような大金であれば、尚のことである。

それまでは現金を要求しても受け渡し場所に自らの存在を示さず、現金獲得を試みる動きはみせなかった。ところが、6月2日では現場に現れ、現金の受け取りに失敗。なんとか逃走したものの、危うく確保されるところであった。

江崎グリコ


5月31日 [3億円要求] ⇒ 6月2日 [受け渡し]
Aさんを使い、自分らの元へ現金を運ばせようとする
Aさんに指定した場所に
犯人ら
失敗、逃走

筆者は、この”6月2日”がひとつの起点になっているとみている。
そして以下に続く―、

 

丸大食品


6月22日 [5,000万円要求] ⇒ 6月28日 [受け渡し]
指定したポイントに電車内から現金入りバッグを投げ落とすよう指示
電車内に
犯人(キツネ目の男)
失敗、逃走

 

森永製菓


9月12日 [1億円要求] ⇒ 受け渡し場所に現れず

 

ハウス食品


11月7日 [1億円要求] ⇒ 11月14日 [受け渡し]
京都南インターチェンジ付近と大津サービスエリアに
犯人(キツネ目の男)
県道117号川辺御園線で犯人グループの1人が職務質問に遭う
逃走

 

ご覧のように―、
6月2日を契機にして、森永製菓の1億円を除き、それ以降は受け渡し現場に現れている。
(姿を現さないときには現場付近に潜んでいる)

犯行当初では、一貫して現金受け渡し場所に姿をみせることなく、リスクを起こさないという姿勢が窺えるが、6月2日からは現金の受け取りを試みている。筆者の目には、この日以降の犯人グループらの目的に変化が生まれたように感じる。「世間を騒がせる」と同じくらい、「金」が強くなったのではないか―。


パート4】へ続く。

 

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