伊勢市女性記者行方不明事件 -4-

これは『伊勢市女性記者行方不明事件』に関する記事の【パート4です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

伊勢市女性記者行方不明事件 -1-

伊勢市女性記者行方不明事件 -2-

伊勢市女性記者行方不明事件 -3-


 

東京のホテトル嬢Aを逮捕監禁した容疑で別件逮捕されたX―、
その後Xは起訴され、裁判に臨むことになる。有罪か無罪か、裁かれるときが訪れた。

 

事件の解説

【被疑者X】ホテトル嬢A逮捕監禁事件 裁判

公判では―、
Xの弁護人である室木が、「別件逮捕の違法性」と「取調べ時の刑事による暴行や脅迫」を訴えた。
すると検察はこれに対し、室木が主張する「取調べ時の刑事による暴行や脅迫」を否定するため、取調べの様子を撮影したビデオテープを提出した。このビデオテープこそ、先述した『X取調べ時における刑事の問題行動』の出所である。

この映像の内容は、誰の目からみても不当な取り調べであるのにもかかわらず、これを「適正な取調べが行われた証拠」として提出した検察。
この異様な検察の動きについては室木も、「恐怖を覚えた」と後にコメントしている。

 

裁判の中ではこのビデオテープ以外にも、さまざまな証拠が提出された―、

【証言】

事件の被害者であるAの証言が公判に提出された。
ところがその内容は―、

「(事件発生時)Xに退去を求めたところ暴行・強姦された。しかしそれから自分は睡眠薬と精神安定剤を服用して眠ってしまった。そのため事件時のことをよく覚えていない

自ら被害を訴えたにもかかわらず、それとは矛盾する不可解なものであった。
しかしながら津地検はこのAの証言に対して、「明確・詳細かつ変遷もない。またその内容の一部は、Aの友人やXの元妻*の供述と符合する」と言及。Aのこの証言を支持する姿勢を示した。

*この逮捕監禁事件を機にXと離婚

 

【写真】

一方、弁護側の物証として、犯行があったとされる時間帯に撮影されたAの部屋の写真を提出。(この写真はXが撮影したもの)
提出されたこれらの写真の中には、被害に遭ったと訴えるAの姿はなく、また彼女が日頃使用していたとされるハンドバッグもなかった。さらには、写り込んだ携帯の充電器にAの携帯が差し込まれていないほか、玄関には彼女の靴がなかった。

尚、これらの写真が犯行時間に撮られたとされる根拠は、写り込んだテレビ画面の番組による。また、Aの部屋を写したこれらの写真には、Xが自撮りしたものも含まれていた。
こうしたことから、これらの写真は”犯行時刻にXがAの部屋に一人でいた”と証明するには十分であると考えるのが自然。
しかもXはこれらの写真を使い捨てカメラで撮影しており、それを逮捕時まで現像せずに置き続けていた。これが意味するところは、これら写真の捏造の可能性は限りなくゼロであるということ。

しかしながら津地検は、「これら写真は撮影の状況・目的がまったく不明であり、証拠価値は低い」と反論した。
(確かに撮影の目的は不明である。しかしながらこれらの写真は、Aが被害に遭ったと主張する時間帯にXが「事件現場」にいたことを証明する一方で、そこにAがいなかったと証明できるのではないか。つまりAがこのとき外出していた可能性が十分に考えられ、すると”逮捕監禁されていた”というAの主張の信憑性に対して疑問が生じる)

 

【録音テープ】

事件が発生したとされる時間帯、Xは写真のみならず録音もしていた。
録音された音声には、以下のようなXとAの会話の様子が確認できる―、

「やだぁー、ここで話して」(Aの声)

「仕事だったら好きでもないやつとでもエッチする。○○君(X)のは仕事じゃない。だから・・・」(Aの声 / 甘えた様子)

このように、録音されたAの声の様子からみても、このとき2人が争うような状況は窺えず、何らかのトラブルの末にXがAを逮捕監禁することは考えづらい。
ところが津地裁は、「音声は不鮮明であり、録音のタイミングもXがAの緊縛を解いた後、2人の緊張状態が鎮静した状況のもの」と反論した。

 

【Aの手帳】

Xが残していた「写真」「録音テープ」のほかに、事件があったとされる時間帯の状況を記録したものとして『Aの手帳』がある。
この手帳とは、ホテトル嬢であったAの売り上げを記録するものであり、つまりそれはAの日頃の就労状況を記すもの。この手帳によると、1997年12月16日夜から翌17日朝までAは働きに出ていたことになっている。
つまりこの手帳によって、「1997年12月16日 13時頃から翌17日 17時頃まで両手を縛られ監禁されていた」というA自身の訴えとの矛盾が露呈した。

ところがこうした物証があったにもかかわらず、検察がAの勤務状況を調べる等の裏付け捜査を行った様子はみられなかった。
(検察がこの手帳の正確性を検証しなかったのは、Xを有罪にしたいが故である。裏付け捜査を行い、そこで手帳の正確性が認められてしまえば、被告人Xが裁判で有利になってしまう)

尚、津地検はこの手帳について、普段Aは売り上げ記録を手帳に数日分まとめて書き込んでいることを指摘した上で、その記録の正確性を疑問視。「Aの手帳に証拠価値はない」と反論した。

 

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【被疑者X】ホテトル嬢A逮捕監禁事件 判決

結局―、
弁護側の提示する証拠に対して終始反論していた津地裁であったが、これらの証拠に基づき、被害に遭ったとするAの証言を否定。
これにより1999年10月5日、津地裁はXに対し無罪判決を言い渡した。検察はこの判決に控訴
しなかったため、Xの無罪が確定
こうしてXに対する逮捕監禁容疑は晴れたのだった―。

 

しかしXの判決を巡るこの裁判において露見するのは、「Xを有罪にするための検察の企て」。
それを決定的に裏付ける事実として―、
検察は、「写真」「録音テープ」「Aの手帳」を入手していたにもかかわらず、これを秘匿していた。その理由は、これらがXの無罪判決獲得に大きく加担するからである。
結果としてこれら物証の存在は、室木が調査を経て追及したことで掘り起こされたが、それがなければこれら有力な証拠は無きものとして裁判が進められていたことになる。もしもそうなっていれば、Xの有罪判決は必至であった。

この逮捕監禁事件では―、
Xの弁護人を務めた室木の優れた能力、そして警察・検察の権力行使、つまるところ「歪んだ正義」が垣間みえた。

 

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日本弁護士連合会による三重県警への警告

Xの別件逮捕(「ホテトル嬢A逮捕監禁事件」)で明らかになった一連の不適切な取調べ―、
結果としてXに無罪判決が下ったが、だからといって”終わりよければすべてよし”というわけにはいかない。

2001年2月7日―、
日本弁護士連合会(以下:日弁連)は、この別件逮捕で津署が不当な取調べを行ったとして、その母体である三重県警(三重県警本部長)、そして津地検検事正*に警告。また、警察庁長官や三重県警公安委員長には要望を発した。

*「検事正」とは、検察庁の長のこと

三重県警本部長宛ての警告文では、津署がXに対し行った行為について―、

「違憲違法な人権侵害行為である。今後、被疑者の取調べに当たっては違法な捜査を厳に慎み、被疑者の黙秘権や弁護人との接見交通権などの権利を最大限に尊重されるように警告する」

 

と記し、強硬な姿勢を示した。
そして警察庁長官及び三重県警公安委員に対しては、管轄する警察署において今後同様の人権侵害が発生しないために、指導・監督の強化をするよう要望を発した。

また、長津地検検事正宛ての警告では、

当時得られていた証拠を考慮すれば、本件(逮捕監禁事件)については「嫌疑不十分」の判断を下すのが正当であったことは明らか。
X〕は本件起訴後も4ヶ月半にわたり代用監獄に勾留され、その間「辻出さん失踪事件」についての執拗な取調べを受け続けたこと等、起訴前後の事情を考慮すると貴庁は、失踪事件についての取調べ機会を確保する目的で恣意的に起訴相当の判断を行ったとの疑いを払拭できない。

 

このように、「当然不起訴とすべき事案にもかかわらず、意図して起訴したこと」について糾弾。
これについてXを起訴した検事は後に、「Xの起訴は辻出さん失踪事件の調べを続けるための目的であり、それが無理筋の起訴であった」と認めた。

さらに日弁連は、

無罪の重要な根拠となるべき証拠(「写真」「録音テープ」「Aの手帳」)の存在を明らかにしようとしなかった対応は、検察の職責に悖るものであるとともに、被疑者・被告人の権利を侵害する違法な人権侵害行為であると評価せざるを得ない

 

そう重ねて糾弾した―。


「ホテトル嬢A逮捕監禁事件」で警察と検察により、危うく犯人へと仕立て上げられるところであったX。晴れて無罪となったXのその後とは。そして本事件、辻出さん失踪の関与についての真相は―。【パート5】へ。

 

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