市川一家4人殺害事件 -11-

これは『市川一家4人殺害事件』に関する記事の【パート11です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

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刑事裁判

千葉地検に起訴され被告人となった関は、裁判において―、

強盗殺人

強制性交等

強盗・強制性交等

強制性交等致傷

窃盗

傷害

これら7つの罪に問われ、千葉地裁により「1991年10月から逮捕されるまでの約5か月間に計14の犯罪を犯した」と認定された。
これは本件以前の余罪3件に関して、傷害・恐喝・窃盗・強制性交等致傷の計4つの罪状で千葉地検に追起訴された分も含む。

【余罪3件】
・1992年2月11日4時30分頃、東京都内の路上で女性に折り畳みナイフを突きつけ、殴るなどの暴行を加えた上、手を切りつけて脅迫。自宅に連れ込み、強姦した容疑 (余罪1 / 強制性交等致傷罪)

・1992年2月25日、市川市内で通りすがりの会社員男性に因縁をつけて鉄の棒で頭を殴り、運転免許証を奪って金を要求した容疑 (余罪2 / 傷害罪・恐喝罪)

・1992年2月27日、埼玉県岩槻市(現:さいたま市岩槻区)内で通りすがりの大学生の顔を殴り、ナイフで全身数十箇所を刺すなどして全治6週間の重傷を負わせ、運転免許証や車検証などを奪った容疑 (余罪3 / 傷害罪・窃盗罪)

 

尚、この刑事裁判における事実認定に関して、主に殺害された4人各々に対する殺意の有無・程度、また強盗の犯意が争点となった。

【本件における最大の争点】
逮捕直後は無知であったがために楽観視していた関も、逆送致されたことでようやく現実がみえだした。そしてまた、逮捕後についた弁護人による付け知恵もあったはず。
するとこのときの関の頭の中には、”少年院で数年”などという馬鹿げた幻想はなく、死刑の二文字すら浮かび上がっていたに違いない。

起訴された関にとって『強盗殺人罪』の成立の有無こそ、自身の処遇を大きく左右するものであった。なぜなら強盗殺人罪は非常に重い。強盗殺人の法定刑は、「死刑」または「無期懲役」。検察の主張どおりこれが4件(4人)すべてとなれば、もはや死刑は不可避。

この刑事裁判で関の勝ち取るべきものは「死刑回避 (無期懲役)」、その一点であった。

 

【裁判の争点 1】事実認定

事実認定にあたり、検察側は以下のように主張―、

「殺害された全員に対して確定的殺意があり、全員に対して強盗殺人罪が成立する」

【ここでのポイント】
殺害された4人全員に対し、強盗殺人の成立を主張した検察―、
しかしここで気になるのは妹・E殺害がそれに当たるのかということだ。なにしろほか3人は成人であるが、Eは4歳。幼児に対して”強盗”が成立するのか。
これについて検察は次のように主張している。

「被告人は事件現場でK・M・Aを順次殺害して金品を強取し、その後でAの会社から預金通帳などを奪うために一旦現場を離れたが、それは現場に再び戻ることを予定しての行動。
現にそれ以前に発見・収集し、ビニール製手提げ袋に入れておいた小銭類を現場に残していたため、一時現場を立ち去ったことを”強盗の現場を離脱した”と解釈することはできず、むしろ犯行を完遂するために現場に戻ったものにほかならない。
強盗殺人などの犯行が発覚することを阻止するためにEを殺害したことなどをみれば、E殺害も強盗の機会になされたもので、強盗殺人罪が成立する」

 

一方、以下は被告側による罪状と殺意に関する主張。そして実際に適用された罪状、殺意の事実認定および量刑である。

祖母・K


被告側の主張

罪状:強盗殺人罪

殺意:未必的

【未必的】・・・確実に殺そうという意思はないが、死んでしまうならそれはそれで構わないという心理状態。
法律用語。「未必的殺意」ともいう。

 

弁護人「被告人にはKに対する確定的殺意は認められず、唾を吐きつけられたことに激怒して冷静さを失い、とっさに首を絞めた。このとき”Kが死亡するかどうか”について考える精神的余裕は全くなく、せいぜい”死ぬかもしれない”という未必的殺意があったにすぎない」

 

裁判所の認定

適用罪状:強盗殺人罪

殺意の事実認定:確定的

関は捜査段階において、「Kが抵抗しなくなるまで首を力の限り絞め続け、脈を調べてその死亡を確認するなどの行動を取っていた』と供述。また公判でも「Kを殺してしまおうという気持ちがあったと思う」と述べた。
関のこうした殺意の存在を認める趣旨の供述から、千葉地裁は確定的殺意の存在を認定した。

 

結果

被告側の主張:強盗殺人罪 ⇒ 事実認定:強盗殺人罪

被告側の主張:未必的殺意 ⇒ 事実認定:確定的殺意

量刑の選択:無期懲役

Kが咄嗟の抵抗として関の顔に唾を吐きかけたことに対し、関が逆上したことで誘発された「偶発的犯行」と認定。そのためKの殺害については死刑ではなく無期懲役刑が適用された。

 

母・M


被告側の主張

罪状:傷害致死罪 ⇒ 強盗致死罪

冒頭陳述で関は「逃げ出されると思って刺した」と主張し、殺意だけでなく金品強取の目的も否定。これに重ねるようにして弁護人は、「Mへの刺突行為は金品強奪のための手段ではない」と主張した。
しかしながら被告側は、最終弁論にてそれまでの主張を変え、最終的に
強盗致死罪の成立を主張した。

殺意:なし

関は捜査段階ではMへの殺害行為に関して、「Mが死亡するかもしれないとは思ったが、激情のまま敢えて意に介さず突き刺した」と供述していた。ところが公判では、「Mが警察に通報することを防ぐために刺した。当時は殺意までは持っておらず、突き刺すことによってMが死亡することも予見していなかった」とその内容を変遷させている。

 

裁判所の認定

適用罪状:強盗殺人罪

殺意の事実認定:未必的

千葉地裁は、「刃物で突き刺すことでMが死亡することを認識・予見しながら、単に犯行の通報などを阻止するにとどまらず、進んで金品を強取する目的で敢えて刺突行為に及んだ。無抵抗になったMを数回鋭利な包丁で突き刺し、刺されたMが大量に出血して苦しむ姿を見ても何ら救命措置を講じておらず、その後もMが既にいないことを前提に行動していた」とした。
その上で、「被害者Mの死を意欲していた (=確定的殺意があった) とまでは認められないが、死に至る危険性は十分に認識・予見していたため、未必の殺意が認められる」と事実認定した。

 

結果

被告側の主張:強盗致死罪 ⇒ 事実認定:強盗殺人罪

被告側の主張:殺意なし ⇒ 事実認定:未必的殺意

量刑の選択:死刑

 

父・A


被告側の主張

罪状:強盗致死罪

関「柳刃包丁で突き刺した時は”Aが死ぬかもしれない”とまでは考えなかった」
弁護人「殺意はないため、強盗殺人罪ではなく強盗致死罪が成立するのが相当」

殺意:なし

裁判所の認定

適用罪状:強盗殺人罪

殺意の事実認定:確定的

Aへの殺害行為について千葉地裁は、「十分な殺傷能力を有した柳刃包丁を使い、瀕死状態のAを敢えて再び刺突した。その後Aの安否を心配した様子はなく、捜査段階でも”被害者が死亡するかもしれないことを認識しながら、激情の赴くままに敢えて意に介することなく突き刺した”と供述している。このことから被害者Aへの確定的な殺意が認められる」と事実認定した。

 

結果

被告側の主張:強盗致死罪 ⇒ 事実認定:強盗殺人罪

被告側の主張:殺意なし ⇒ 事実認定:確定的殺意

量刑の選択:死刑

 

妹・E


被告側の主張

罪状:殺人罪

殺意:未必的

 

裁判所の認定

適用罪状:殺人罪

弁護人はEの殺害について、「朝起きて騒ぎはじめたので、事件の発覚を恐れて刺した。強盗目的もない」と単純殺人罪を主張。
これに対し千葉地裁は、「Nが両親の会社から持ってきた通帳・印鑑を奪って以降はそれ以上金品を物色する行為に出ておらず、Nをラブホテルに連れ込み、806号室に戻ったのは会社に向かってから5時間近くが経過した6時30分頃だった。
被告人が前夜に収集してビニール袋に入れておいた小銭類は、これを収集した時点で既に被告人に移転していたため、強盗殺人行為は遅くとも”会社の通帳・印鑑を奪った時点”ですべて終了したものとみるべきである。
よってEの殺害については、殺人罪を適用とする」と事実認定した。

殺意の事実認定:確定的

Eへの殺害行為に関して、「十分な殺傷能力を有する包丁を用い、刃先がEの身体を突き抜けるほどの強さでEの身体を突き刺し、Nに”首を絞めるとかして妹を楽にさせてやれよ”などと言い放ったことに加え、公判でも”刺した時にはもう死んでしまっても仕方ないと思った”と供述したこと。これらを鑑みると、Eの泣き声などにより、一連の犯行が露呈することを恐れて確定的殺意を有した上でEを殺害したと認めるのが相当」と事実認定した。

 

結果

被告側の主張:殺人罪 ⇒ 事実認定:殺人罪

被告側の主張:未必的 ⇒ 事実認定:確定的殺意

量刑の選択:死刑

 

その他


千葉地裁は―、
・Nに対する「強制性交等致傷罪」、「強制性交等罪」:いずれも有期懲役刑を選択
・その他各種余罪:いずれも有期懲役刑を選択

 

各罪状における量刑選択の内訳は以上のとおりであったが、刑法第51条の「死刑を執行すべきときは他の刑を執行しない」という規定に則り、実際に適用された刑は『Eに対する殺人罪への死刑』となった。

殺人罪と強盗殺人罪では後者の方が重いにもかかわらず、このとき唯一の「殺人罪」であったEが選ばれたのはやはり年齢。ほか3人に対する強盗殺人を差し置いて、Eに対する殺人罪が最も重いとされたのは、4歳という抵抗もできない幼女を殺害したことに対する犯情による。

 

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【裁判の争点 2】責任能力

検察側は小田 晋(起訴前)と福島 章(公判中)の2名による精神鑑定結果を踏まえ、

「2度の鑑定でも精神病の兆候は認められず、自己の行為の是非・善悪を弁別する能力に障害は認められない。被告人には完全な責任能力がある」

と主張。
これに対し弁護人は福島氏による精神鑑定結果に基づき、

「被告人は爆発型精神病質・類転換病質で、犯行当時は心神耗弱状態だった」

と主張した。

結果として千葉地裁は、

「精神鑑定から被告人が”心神耗弱だった”と断言することは困難。<爆発的精神病質者>との鑑定があるものの、それが責任能力に支障をきたすほどではなかった。よって責任能力は問題なくあった

と結論付けた。
千葉地裁は争点であった「事実認定」と「責任能力」において、大筋で検察側の主張を採用。その結果、死刑を適用した。

 

結局―、
裁判は上告審にまでもつれ、1992年12月25日の初公判から死刑確定の2001年12月3日まで及んだ。
実に9年にも及ぶ長い裁判が幕を閉じた―。

 

本事件は第一審・控訴審・上告審のいずれにおいても死刑適用が回避されることなく確定にまで至った。少年事件で死刑確定もさることながら、三審すべて死刑適用。これらが関の犯した罪の残忍さ、そして関 光彦という人間がいかに非人間的であるかを証明したことはいうまでもない。

当時は死刑廃止を求める声が多く上がっていた機運にあり、それゆえ未成年に対する死刑については世論を賑わせた。
とりわけ日本国内のアムネスティ・インターナショナルは、関の死刑判決に対して否定的な態度を示していた。

 

死刑執行

法務大臣の上川 陽子(当時)の死刑執行命令(2017年12月15日付署名)により、2017年(平成29年)12月19日に収監先である東京拘置所で関の死刑が執行された。
事件発生から実に25年、死刑確定から16年後の死刑執行であった。

逮捕当時19歳の未成年であった関も、このとき44歳になっていた―。

おわりに

死刑執行の第一報を受け、日弁連や駐日欧州連合代表部など各所で死刑執行に対する抗議声明が発表された。

いまや死刑存置国は少数派。存置していても長年実施していないというような実質的に廃止の国もある中、これほど定期的に死刑執行している先進国も珍しい。(先進国アメリカも死刑制度はあるが、その有無は州ごとに異なるため除外。アメリカは各州が国のようなものである。また韓国も死刑存置ではあるが、凍結状態。’98年以降死刑は執行していない)

欧州ではほぼすべてが死刑廃止。国際的にも死刑廃止の方向に向いているが、日本はいつまでこの流れに逆行していくのだろうか―、
とはいえこれを翻すようだが、筆者は死刑に対して賛成の立場をとる。

 

以下は裁判の中で極刑を求めるNの言葉だ。

「今でも両親らとの楽しかった思い出を夢に見る。私から大切なものをすべて奪った関が憎くてたまらない。関をこの手で殺してやりたいし、この世に生きていてほしくない。関は許されていいはずがない。優しかった父母や祖母、自分に”おねえちゃん”と甘えて可愛かった妹をなぜ殺した。家族を返せ」

 

これはあくまで筆者の個人的な考えであるが、ここまでの犯罪を犯した人間の更生は望めない。仮に長い時間を経て社会に出てきても、また何かを犯す。
そしてなにより、自分が犯した罪の対価は支払わなくてはならない。関の場合、たとえ死ぬまで塀の中にいたとしても、釣りすら出ない。故に本事件における死刑判決は至極当然。死刑ですら生温い。

 

最後に―、
関の父親がまともであったなら、この凄惨な事件は起きなかったかもしれない。もしくは、もっと早い段階で父親から関を断絶していれば。そして気になったのは、母親の関に対する接し方。間違いなく息子を甘やかしすぎた。
要するに、劣悪な家庭環境が関の歪んだパーソナリティーの形成に大きく加担した可能性は否定できない。
人間が生まれ持った性質は変えようもないが、家庭環境というのはそのマイナス部分を軌道修正したり、プラス部分をさらに伸ばしたり、人格形成に関わるエッセンスを供給する場所。
しかしここで関の両親を咎めても仕方ない。

とはいえ、同じ環境で育った弟は凶悪犯罪者にはならなかった。さらにいえば、関と同じような境遇にあっても人殺しにならない人間は世の中にたくさんいる。

やる人間はやるし、やらない人間はやらない。そういうことだ。

オラクルベリー・ズボンスキ(小野 天平)

 

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【強制性交等罪】
かつては「強姦罪」と呼ばれていたが、2017年の刑法の一部改正に伴い、現行の名称へと変更された。ほかにも―、

「強盗・強姦罪」⇒『強盗・強制性交等罪』
「強姦致傷罪」⇒『
強制性交等致傷罪』*

なども同様。要するにそれまでの名称から”強姦”が排除された。

この改正によって、本罪はそれまでの親告罪から非親告罪となった。つまりかつてはレイプ被害に遭っても被害者が訴えなければ、加害者は告訴されることはなかった。
また、それまで被害者は女性のみの適用であったものを男性も含むようになり、性別不問となった。
この改正で性犯罪の重罰化が図られ、性差がなくなった。

*一般にいわれる「強姦致傷罪 (現・強制性交等致傷罪)」という罪状は存在しない。そのためレイプに伴って怪我を負わせた場合、「強制性交等罪+傷害罪」またその程度によっては強制性交等罪が単一で成立するケースもある。

[法定刑]
強制性交等罪:5年以上の有期懲役
強盗・強制性交等罪:無期または7年以上の懲役
強制性交等致傷罪:不定 (適用される罪状に依存)

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