千里眼事件 -4-

これは『千里眼事件』に関する記事の【パート4です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

千里眼事件 -1-

千里眼事件 -2-

千里眼事件 -3-


 

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事件の解説

熊本実験

東京での公開実験から2か月後―、
明治43年11月17日18日、熊本で福来による透視実験が行われた。
このとき福来は、それまでの自身の実験にない試みを取り入れた。それは
自らの目の前で千鶴子に透視をさせるというもの。
福来はこの対面での透視実験に高い価値を見出していたが、18日の午後にそれは行われた。

対面での透視実験。その内容は―、
2個のサイコロをたばこの箱に入れ、福来が数回振ってから千鶴子に手渡す。千鶴子はこれを目の前で透視し、中のサイコロの上面の目を答えるというもの。透視結果の正誤は、1回ごとに箱の封を解いて確認された。
尚、千鶴子に手渡すサイコロ入りのたばこの箱には、開け口を紙で封をした上で割り印が施された。今回は目の前での透視のため開封することは不可能であるが、それでも万が一開封された場合にはそれが分かるようになっていた。

当時のたばこのイメージ
「敷島」:明治37年6月29日から生産・販売開始。このときの実験に敷島が使われていたかどうかは定かではない

このように、福来のサイコロ実験は本来あるべき透視実験のようにみえた。
ところが―、

このサイコロ実験の問題点を指摘する人物がいた。日本超心理学会の初代会長・小熊 虎之助である。

小熊 虎之助

小熊が指摘するところによると―、
1回ごとに箱の封を解いて答え合わせをする点に問題があるという。
曰く、たばこの箱は小さい上に細く縦長であるため、振っても中のサイコロがよく回らない。そのため、前回出た目のままになってしまうことがある。またサイコロが精巧でないことからも同様のことがいえる。
つまり、”1回目に出たサイコロの目を受け、2回目の出目を推測できるだろう”ということである。

【筆者による超解説】

ここで小熊の指摘に補足、加勢したい。

まず、小熊の指摘を裏付けるように、実際に実験では「5」の目が4回連続、「2」の目が2回連続で出ている。このとき千鶴子が的中させたのは、同じ目が連続で出たときのみ。手掛かりのない初回は外している。
つまり小熊の言うとおり、千鶴子はサイコロがよく回らないことを見抜いており、前回の出目を参考にしていた可能性は考えられる。しかし筆者の考えはもう少し踏み込んだもので、
このとき福来は箱をカクテルのシェイカーのように激しく振るのではなく、優しく横の動きで箱を揺り動かしていただけと考える。

ちなみにこのサイコロ実験は5回行われ、千鶴子はそのうち3回成功したといわれている。すると成功率60%となるが、筆者はこの数字に関して物申したい。
筆者とすれば、もしも千鶴子が本当に超能力なるものを持っていたというのならば、それは100%でなければ納得できない。

そもそもであるが、この実験は試行回数が少なすぎる。たった5回の試行回数で成功率60%などと言われたところで、それはお笑い種にしかならない。その上この実験は、2個のサイコロのうち1個の目を当てさえすれば「正解」とされていたような節がある。となれば、「1」から「6」の目を適当に言っても約17%の確率で当たる。実験ではサイコロは2個使われているので抽選回数は2回といえる。これに小熊が指摘のサイコロが回らないことを加味すれば、成功率60%にもなるはずである。

よしんば正解条件が2個のサイコロであったとしても―、
福来の実験では2個のサイコロの
それぞれを大小といったように区別していない。つまり、サイコロの出目は「1」から「6」あるが、2個のサイコロを区別していないので(1・2)や(2・1)といった重複する出目の片方が除外されてしまう。すると2個のサイコロの出目は21パターンになる。つまりでたらめに回答しても約5%の確率で正解することができる。
(2個のサイコロを区別している場合は36パターンで正解確率は約3%)

要するに、同一のサイコロを2個使ったこと、ひいては確率を持つサイコロを透視実験に使ったことが最たる欠陥であり、正面で行っても箱に封をしても意味がなく、最初からこの透視実験は破綻していたのだ。
確実性の高い透視実験を行うならば、3文字を書いた紙を鉛管に入れ厳封。それをただ目の前で透視させればよかったはずだ。すなわち、東京実験で千鶴子に目の前で透視させればよかったということである。

福来 友吉―、
学者たる人物がこれらのことが分からなかったとは思えない。福来は意図してこの瑕疵のあるサイコロ実験を行ったのだ。
新たな試みとしての「対面での透視」、これだけでもインパクトがあったが、これに加えてたばこの箱を封印の上で割り印。”完全セキュリティ”を演出したのである。

『福来博士の透視実験』。
そこには大衆の目を欺くトリックがあり、彼の”権威ある学者”というブランドもそれを手伝ったというわけである。

 

 

そして東京実験と熊本実験の翌年―、
明治44年1月19日、御船 千鶴子は死亡。死因は二クロム酸カリウムを摂取したことによる中毒死であった。

『二クロム酸カリウム』
劇薬指定。皮膚に接触・吸入・飲み込むと有毒。顔料の原料として使われる。
名前の”二クロム”の「二」は漢数字。カタカナではない

この二クロム酸カリウムは千鶴子自身が買い求め、18日15時半頃に服毒したとみられている。服毒後は実に12名もの医師が呼ばれ、手当てが施された。これにより19日未明には容体が安定するも、午前3時頃に急変。再び苦しみだした千鶴子の元へ駆けつけた親族が「遺言はないか」と尋ねると、千鶴子はこれに「いえ、何も申し上げることはありません」と答えた。
そして
午前5時頃、眠りに就くようにして息を引き取った。

自殺の理由については―、
生前に千鶴子が語っていなかったことや、周囲の人間に思い当たることがなかったために様々な憶測が飛び交った。
しかし当時、そうした中で最も有力視されていたのは、親族間の不和が原因とするもの。
実際、千鶴子の父と義兄・猛雄との間で、千鶴子を巡る争いがあったといわれている。両者は金儲けのために千鶴子を取り合っていたのだ。

千鶴子の死を家庭不和に苦しんだ末の自殺によるもの伝え、彼女を悲劇のヒロインとして美談にする者もいる。しかし筆者の見解は、千鶴子が紛うことなき詐欺師だったということ。

東京実験での鉛管すり替え以外にも―、
封筒を用いた透視実験で立会人に背を向けていた千鶴子が、背後から分からないように指だけを動かして開封していたことが明らかになっている。
また、福来による手紙での遠隔透視実験において、千鶴子へ送られた19通の封筒のうち福来に返ってきたのは7通のみ。それらはすべて正解。
残りが返送されない理由を問われた千鶴子は、「3通はうっかり火鉢に落として燃やしてしまい、残りは疲れていてできなかった」と説明。尚、疲れてできなかった分はその後も返送されていない。
要するに7通しか奇麗に開封できなかったのだ。

千鶴子は超能力者を謳って患者に治療を施し、相当な金を稼いでいた。家族ぐるみの詐欺事件、その演者だったのだ。そんな千鶴子を信じて騙された人は多くいたが、見抜いていた人もまた多くいた。

結局、千鶴子は新聞をはじめとした世間からの激しい批判に耐えきれずに自殺した。現代における、SNS上での誹謗中傷による自殺と同じ構造だ。これが筆者の見解である。

 

千鶴子は自分が蒔いた種、その毒で死んだのだ。

尚、千鶴子は自殺前に福来へ手紙を宛てている―。

 

千鶴子は映画『リング』(1998年)に登場する山村 志津子のモデルとなった人物である。
作中の志津子も超能力の公開実験を行うが、やがて世間による激しいバッシングを苦に自殺する。

同じく作中に、”観たら1週間後に死ぬ”という呪いのビデオを主人公が観るシーンがある。その翌日、つまり死へのカウントダウン1日目が9月14日とされている。
9月14日といえば、千里眼事件の核心「東京実験」の行われた日である。


パート5】へ。

 

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コラム 【超心理学】

 

本事件を語る上で外すことのできないのが、「超心理学」。
一般には聞き慣れない学問であるが、これは既知の自然界の法則では説明できない現象を研究する学問である。
具体的なその研究対象は以下のとおり。

 

念動力 (サイコキネシス / PK)

念じることで、触れずに物体を動かす能力。
「単に対象を動かす」「変形させる」など対象物の操り(動かし)方には
種々ある。またその対象は他物のみならず、例えば自分が宙に浮く舞空術もこれに含まれる。
「変形」においてはスプーン曲げも含むとされるが、これは念動力でもなんでもなく単なるてこの応用。ちなみに、スプーン曲げで有名な超能力者のユリ・ゲラーは元々マジシャンである。マジックには、タネがある。

スプーン曲げはてこを用いて曲げている。そのためいつだってスプーン曲げは支点から曲がる。

 

超感覚的知覚 (ESP)

五感を用いずに外界に関する情報を得る能力。
テレパシー、予知、透視、千里眼などがこれに含まれる。尚、千里眼とはその名のとおり、千里先の遠隔地の出来事を感知できる能力のことをいう。この定義からいえば厳密には違うが、透視が千里眼と呼ばれることもある。本事件がまさにそれである。

 

大きく分けると、これら2つが超心理学の研究対象であるが、臨死体験や体外離脱、前世記憶、さらには心霊現象までもが含まれる場合もある。
このように超心理学は、その研究対象がオカルト的なものであるだけに、「科学として認められない」「科学と認めはするが心理学ではない」といった否定的な意見も少なくない。そのため、その立ち位置は確立されていないのが現実である。

 

福来のサイコロ実験の不備を指摘した前出の小熊 虎之助。
彼が初代会長を務めた日本超心理学会は、現在においても科学的な見地に立ち、超心理学の解明に努めている―。

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