新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件 -4-

これは『新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件』に関する記事の【パート4です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件 -1-

新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件 -2-

新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件 -3-


 

特記事項

指摘される点

先述したように、本事件では確度の高い共通点がいくつかみられた。そのため、本事件は同一犯による犯行というのが一般的な見方である。
しかしながら当然、これを否定する者もいる。その根拠として挙げられるのは以下のとおり。

【指摘される点 その1】
第二の事件では被害女性の身元が判る物をすべて持ち帰っているのに対し、第一の事件と第三の事件では被害女性の所持品が残されたままであった。

これに対する筆者の見解:
筆者は男と被害女性のいずれもが初対面であったことを前提に考える。
第三の被害者・17歳の少女は友人に「演劇関係に詳しい人と知り合った」と話していることから、男とは何らかの形で知り合い、事件当日に初めて対面する様子。
また第四の事件でも男は、ゲームセンターにひとりでいた女性をナンパしている。
第一・二の被害者に関しては、男と女性たちが初対面であった確証はないが、第三・四の犯行様式からみてその可能性は高いのではないか。

恐らく男は歌舞伎町で女漁り(ターゲット探し)を日常的に行っており、その中で”引っかかった”女性をホテルへ連れ込み、犯行に及んだとみている。すると一連の犯行が場当たり的なものにもみえ、”であるならば被害者の身元に繋がる所持品を持ち去ったりしなかったりというムラが出るのではないか”、そう考える方もいるかもしれない。しかしそこは誰も邪魔をしないラブホテルの一室、いわば密室であるのだから、どこにも焦る必要はないのである。
つまり指摘される点である先述の―、

『第二の事件では被害者の身元が判る物をすべて持ち帰っているのに対し、第一の事件と第三の事件では被害者の所持品が残されたままであった』

これは逆にこう考えられないだろうか、

『第二の事件では被害女性の身元が判る所持品を持ち去る必要があった』

つまり第二の被害女性と男は何らかの形で以前から繋がりがあり、被害女性の身元が判ってしまうとそこから自分に捜査が及ぶ可能性があったのではないか。

 

【指摘される点 その2】
事件の発生に規則性がない。
(曜日や事件発生の間隔)

これに対する筆者の見解:
これは間違いである。この事件における犯行には規則性がある。
先述のとおり、男はナンパに引っかかった女性を襲うというように、犯行のタイミングに関しては場当たり的であった可能性は否めない。そのため、必然的に事件発生に規則性は生まれない。しかしそれは曜日においては、である。
以下は各事件が発生した曜日である―、

第一の事件:金曜日
第二の事件:土曜日
第三の事件:日曜日
第四の事件:木曜日

このように曜日には規則性がない。


目撃された男の容姿は共通してスーツ姿(サラリーマン風)であった。もしもこれがその通りに男がサラリーマンであったならどうだろうか。

第一の事件:金曜日 10時頃 事件発覚
(前夜のうちに殺害・
退出すれば、この日の出社に間に合う)

第二の事件:土曜日 22時頃 事件発覚
(同日21時頃にチェックイン。つまりすぐに殺害、退出している)

第三の事件:日曜日 19時40分頃 事件発覚
(同日18時30分頃にチェックイン。やはりすぐに殺害、退出している)

第四の事件:木曜日 23時頃発生
(これは平日の23時頃と遅い時刻に発生しているが、この時刻というのも被害女性の証言に基づくものであるため、実際はもう少し早い時刻に犯行が行われた可能性がある。また男が新宿エリアから近いところに住んでいれば、仮に終電が終わった後でもタクシーなどで帰宅は可能である)

一般的な会社勤めのサラリーマンであれば、平日の夕方には勤務を終えているだろう。すると一連の事件発生時刻と概ね合致する。

 

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筆者が描く犯人像

目撃証言に基づくここまでの筆者の推察をまとめると、以下のような犯人像が浮かび上がる。

犯人像

・30代
・女性慣れしている
・端整な顔立ち
・新宿エリアで働くサラリーマン、もしくは歌舞伎町界隈で働くホストの可能性が高い(そのほか風俗店、キャッチ、スカウトなどの類)
・裏社会と繋がりを持つ可能性が高い (本職と兼業の売人の可能性あり)

犯行目的

覚せい剤をエサに女性をラブホテルに連れ込んで金品を奪うため。
殺害は金品を得るためにやむを得ず行われた。故に刃物で刺すといったように惨たらしく殺してはいない。

※尚、男が本当に覚せい剤を所持していたのかについて筆者はやや懐疑的。というのも筆者は犯行目的が金品という前提で推察しているため、男が経済的に困窮していたとみている。
となると、”それっぽい”女性に声をかけ、偽物の白い粉をちらつかせて女性をホテルに誘い込んだ可能性も否定できない。ただしこれを前提に考察をしていくと、薬物反応が出た被害女性3人すべてが常習者であったと考えなくてはならない。
そうするば男の誘い文句、例えば「安く譲るよ」「上質なのあるよ」といったものに女性らが食いつき、騙されて金品目的で殺されたというシナリオも浮かんでくる。

未解決事件というのは考えだすと、いくつも可能性が生まれてきてしまう。
いずれにせよ、真相は男以外誰も知らない。

 

本事件に対する当時の反応

『新宿歌舞伎町ラブホテル連続殺人事件』―、
俗臭を感じさせる名称、そして歌舞伎町2丁目(ラブホテル街)、ひいてはラブホテルの一室というごく限定的な範囲・シチュエーションで連続的に発生したことから、当時の世間の注目を集めた事件ではあった。
ところが第三の事件直後に大きな事件・事故が相次いだことから、マスコミや世間の関心は一斉にそちらに向いた。また本事件の捜査に進展がなかったこと、その後も歌舞伎町で同様の事件*が起きたことでこの類の事件が珍しくなくなったこともそれを手伝った。

*「新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件」(1982年6月)

警察も本事件解決の糸口を見いだせなかったことから、捜査に対する姿勢も消極的。その結果、捜査本部は1年足らずで大幅に縮小。こうしたことから本事件は風化の一途を辿り、1996年(平成8年)3月から6月にかけてそれぞれの事件が公訴時効を迎えた
96年当時、本事件が公訴時効を迎えたことはまったくと言ってよいほど報じられなかった。この事実から、本事件に対する当時の世間の関心が、いかに野次馬的であったかが窺い知れる。

 

事件の余波

現在でこそラブホテルでの防犯カメラ設置は当たり前となっているが、そのきっかけとなったのは本事件。
この事件が起きた81年以降、各地でラブホテルを舞台にした類似事件が発生した(注目された)ことにより、それまでの「プライバシー重視」から「安全重視」へと社会の意識が変遷していった。
また90年代に迎えたバブル経済の終焉に伴い、経営者らがラブホテルで自殺する事案が相次いだこともその一翼を担ったといえる。

そのほか、”歌舞伎町は危ない街”という一般認識を根深くさせたのも本事件といってよい。
それ以前から歌舞伎町界隈には種々の非合法があちらこちらにあり、殴り合いの乱闘騒ぎをはじめ、女性の性的被害、違法風俗店、裏賭博、違法薬物の売買など、元来アンダーグラウンドな街であったとはいえ。
近年では「歌舞伎町浄化作戦」などという取り組みが行われ、東京都は歌舞伎町の治安水準の向上を図っている。
しかし歌舞伎町がクリーンな街となる日はまだまだ遠いだろう。 

 

本事件が発生してしまった要因はほかでもない、女性らが見知らぬ男と行きずりの関係を持ったこと。
たとえそれを”一度きり”だと心に決めていたとしても、その一度で終わってしまうかもしれない。危険な街で無防備でいるということは、その危険を大いに孕んでいるのだ。

この事件から学ぶべきことは、女性ひとりで見知らぬ男について行ってはいけないということ。ましてやそれがラブホテルという密室へはなおさらである。

そしてなにより―、

アウトローの人間には、アウトローの人間が寄ってくる。そして近づいてきたその人間は悪意、ひいては殺意を隠し持っているかもしれない。

オラクルベリー・ズボンスキ(小野 天平)