北九州監禁殺人事件 -8-

これは「北九州監禁殺人事件」に関する記事の【パート8です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1】からお読みください。

北九州監禁殺人事件 -1-

北九州監禁殺人事件 -2-

北九州監禁殺人事件 -3-

北九州監禁殺人事件 -4-

北九州監禁殺人事件 -5-

北九州監禁殺人事件 -6-

北九州監禁殺人事件 -7-


 

※本編文章内で示す各人物の年齢は当時のものです

1998年

【緒方の義弟・主也さん】義母の殺害 -母、娘2人に殺される-

その後、度重なる通電によって精神に異常をきたし、奇声を発するようになっていた緒方の母・静美さん。

1998年1月20日―、
アジトはマンションの一室。隣接する住民への監禁発覚を危惧した松永は、静美さんの処遇について緒方と理恵子さん、そして主也さんに対応策を練らせる。

静美さんの処遇については緒方らが「精神病院への入院」「アジトを他に移す」など殺人以外の方法を提案したが、これらはことごとく松永によって却下された。
そこで、緒方らが静美さんの殺害を提案すると、「一家の決断なら仕方ない」とあくまで自らの提案ではないことを強調。しかしその後で、主也さんが「良くなるかもしれないので、もう少し様子をみるべき」と妥協案を出すと、松永は「今は暴れないからいいが、もしも殺す段階で暴れるようになったら面倒だ」とできるだけ早く殺害することを促した。
さらに松永は、「殺すならば、どうやって殺すんだ?」と緒方らに考える暇を与えず、静美さんの殺害を既定方針として進めた。

 

そしていよいよ―、
静美さんの殺害にあたり、緒方らは部屋にあった電気コードを松永の許可を得て借りた。
そしていざ殺害実行の段になるも、解体に必要な道具の購入を先んじてすることを緒方が提案。ところが松永は、「買いに行っている間に奇声が外に漏れたらどうする?」と、あくまで殺害を優先することを暗に要求した。
(ここでのやりとりでは、緒方が母・静美さんの殺害を少しでも先延ばしにしようとしている様がみてとれる)

こうしたやりとりを経て―、
娘2人(緒方と理恵子さん)に押さえつけられた静美さんは、娘婿である主也さんによって絞殺された。(第3の殺人)

 

【緒方の義弟・主也さん】妻の殺害 -外れた箍(たが)-

3人の殺害を経て、それまでいたマンション(第一アジト)から別のマンション(第二アジト)へ移動した松永たち。

1998年2月10日―、
そこでは理恵子さんとその娘・彩ちゃんが松永の指示の解釈をめぐって口論をしていた。
(この口論は理恵子さんの聴力低下が原因であったと筆者は推察する。というのも、理恵子さんは度重なる通電によって聴力が著しく低下しており、松永の指示を正確に聴きとることすら困難になっていたからである)
この口論の様子をみていた松永は、「理恵子がおかしくなった」などと因縁をつけはじめ、ついには緒方に「妹が母親みたいに(奇声を上げるなどしたら)なったらどうするんだ」と遠回しに理恵子さんの殺害を連想させた。
そして松永は、「いまから向こうのマンション(第一アジト)に行く。どういう意味か解るな?」と緒方に告げ、理恵子さん殺害をより明確に暗示した。

松永は第一アジトへ移動した後で、「俺は今から寝る。俺が起きるまでに結論を出して終わっておけ」と緒方らに指示。
この言葉が松永からの殺害命令と解っていた緒方、彩ちゃん、主也さんの3人は即座に話し合う。

「理恵子さんの殺害を拒否したいが、松永の曖昧な指示の詳細を訊こうとすると自分たちが通電される」

「仮に殺害を拒否しても、理恵子さんは松永の酷い虐待を受けて苦しみながら殺されるのでは」
(松永は決して自ら手を下して殺害しないので、これは誤算であった)

このように話しながら悩んでいた。
その末に、3人は先の話の詳細を訊きに松永の元へ向かったが、松永のいるアジトのドアは開かなかった。
この状況をみた緒方は―、

“松永が目覚めるまでに妹の処遇を終えていなければ自分たちも虐待される”

これを危惧し、2人に訴えた。
すると主也さんが意を決し、妻である理恵子さん殺害の実行役を買って出た。
そして主也さんは彩ちゃんに対し、「お父さんが首を絞めるから、お前は足を押さえてお母さんに最期の別れの挨拶をしなさい」と言ってきかせた。

 

そしていよいよ―、
理恵子さんが監禁されている浴室に主也さんと彩ちゃんが入る。
主也さんが理恵子さんの首に電気コードをかけようとすると、夫である主也さんをみつめた理恵子さんは「主也さん、わたし、死ぬと?*」と小さな声で問うた。*九州の方言
それに主也さんは「理恵子、すまんな」と答え、彩ちゃんに彼女の足を押さえさせた上で、妻である理恵子さんを絞殺した。(第4の殺人)

妻の殺害後―、
主也さんはすすり泣きながら、「とうとう自分の嫁さんまで殺してしまった」と呟いた—。

 

【緒方】義弟の殺害 -衰弱の見殺し-

松永 36歳, 緒方 36歳

義母そして妻を立て続けに殺害した主也さんであったが、その主也さん自身も松永による通電と食事制限により、たびたび嘔吐や下痢をするなど衰弱していた。

こうした症状が一時的に治まったある日―、
主也さんは愛人に会いに行く松永を大分県中津市まで車で送迎することになる。
そして松永が愛人と会っている間、主也さんは現地のレストランで監視役の緒方と共に食事をしながら待機していた。
(このとき、できるだけ長くレストランに滞在するために、量の多いセットものを注文して食べるよう主也さんは松永から指示されていた。そのため主也さんは、このとき丼と小うどんのセットとメンチカツを注文している)

その後、松永らと共に大分から小倉のアジトへ戻った主也さんであったが、体調は再び悪化。
こうした中、松永は浴室に監禁している主也さんの嘔吐が酷くなったため、胃腸薬を主也さんに飲ませた。ところが症状は治まらないどころか、上半身を起こすことが困難となり、また繰り返される嘔気に主也さんは苦しみ続けていた。

 

1998年4月13日―、
松永は主也さんに眠気防止のドリンクと缶ビール(500ml)を与える。
(松永自身は主也さんがこれらを飲み干した場面は確認していなかったが、それぞれ空になったビンや缶を持って浴室から出てきた主也さんの姿を見ている)

そしてドリンクとビールを飲んだおよそ1時間後―、
主也さんが浴室で衰弱死していることが他の被監禁者によって確認された。(第5の殺人)
(これを最初に確認したのは娘である彩ちゃんであったが、彼女は父・主也さんの死を松永へ事務的に報告している)

※この第5の殺人については、見殺しにしたという点で便宜上、殺人者を緒方としている。しかしながら実質的には松永が殺したも同然である。(すべての殺人についていえることではあるが)

 

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【緒方】甥・優貴くんの殺害 -母の元への導き-

緒方36歳

主也さんの死亡によって、アジトにいる3人の被監禁者のうち、大人は緒方のみとなる。
(そのほかはすべてこどもで、幸子さん、彩ちゃん、優貴くん。※松永と緒方の子ども2人は被監禁者とせず)

松永と緒方の子ども2人はもちろんのこと、世話役・監視役等を担うことで優遇ポストに就いていた幸子さんは特別な処遇を受けていた。
その一方で、彩ちゃんと優貴くんは徐々に悲惨な境遇へと追い込まれていく—。

 

1998年5月17日―、
彩ちゃんは松永に対して自宅への帰宅を願い出る。
このとき彼女は、「このこと(一連の事件)は誰にも言いません。弟にも言わせません」と告げた。ところが松永は、「人を殺しているし、死体もバラバラにしているから警察に捕まっちゃうよね。優貴が何も喋らなければいいけど、そうはいかないんじゃないかな?」と翻した。
そして、やがてそれは「俺や君自身に不利益が生じるけど、責任持てるの?」といったように尋問へと変わっていく。さらに、「優貴は可哀そうだから、お母さん(理恵子さん)のところへ行かせてやる?」と優貴くんの殺害を暗に命じた。

そして―、
彩ちゃんはこれに対して「そうします」と答えた。

その後、事の次第を知った緒方は、「わたし一人で優貴くんを絞める」と言ったが、松永はあくまで彩ちゃんと一緒に優貴くんを殺害することを命令。さらには、それまで緒方一家の殺害に一切加担していなかった幸子さんにも、このときは殺害に加わるよう命じた。

 

そしていよいよ―、
彩ちゃんは優貴くんに台所の床に仰向けになるよう指示し、横になった優貴くんに「お母さんのところへ連れていってあげるからね」と告げ、幸子さんが足を押さえ、緒方と彩ちゃんが二人がかりで優貴くんを絞殺した。(第6の殺人)

 

【緒方】姪・彩ちゃんの殺害 -幼き者、自らの死を悟る-

やがて松永は、彩ちゃんに対する通電を繰り返して衰弱させた上で、「太っていたら大変だろ?」と肥満体型であった彩ちゃんの食事量を制限しはじめる。

この様子をみた緒方は―、
“太っていたら解体が大変なので、いまから彩ちゃんを痩せさせている”と松永の画策を推し量った。そのほか、先の優貴くん殺害直後に解体道具を多めに買ってくるよう自身に指示したことからも、松永が次は彩ちゃん殺害を計画していることを察していた。
また、彩ちゃんだけがいない場面において、松永は幸子さんに向かって「あいつは口を割りそうだから処分しなくちゃいけない」「あいつは死ぬから食べさせなくていい」と彩ちゃん殺害を他の被監禁者たちに示唆していた。

 

そして1998年6月7日―、
松永は浴室で彩ちゃんと二人きりで何度も話し合った後で、緒方と幸子さんに告げる。

「彩は死にたいと言っている」

すると―、
その場にいた彩ちゃんはこくりと頷いた。

 

そしていよいよ―、
彩ちゃんの殺害は緒方と幸子さんによって行われたが、このとき彩ちゃんは静かに横たわり、2人が首を絞めやすいように自ら首を差し出した。(第7の殺人)

 

【松永】緒方に心中の命令を下す -新たな詐欺事件-

緒方一家6人が死亡した直後、松永は緒方に対して心中の命令をしていた。
松永曰く—、

「お前と子ども2人*がいるから、隆(幸子さんの父)に成りすますことができない」
*松永と緒方の子ども

「お前ら3人がいなければ、俺は隆としてちゃんと生きていける」

ということであった。
結局、緒方はこの心中を実行することはできず、松永の”隆さんなりすまし計画”は失敗に終わった。

 

ちょうどこの頃―、
松永は新たな金主の獲得を目論んでいた。そのターゲットとなったのは、夫との不仲に悩む専業主婦Tさん。
松永はこのTさんから悩みを訊きだし、夫と離婚して自分と一緒になることを求める。さらに松永はTさんに対して、「夫の狙いは子どもだから、子どもは自分が預かったほうが良い」と提案し、Tさんの2人の子ども(双子)を預かった。そのため、この双子と松永と緒方の子ども2人の計4人は、緒方や幸子さんによって育てられることになった。
双子を預かると同時に、松永は養育費名目でTさんに金を要求。やがてTさんが金を工面できなくなると、松永はTさんに風俗店を紹介し、そこで働かせた。

最終的に松永は、このTさんから計2,500万円ほど貢がせていた。

 

そしてその後の1999年7月—、
松永が経営していた「株式会社 ワールド」による詐欺商法、これにより指名手配犯となっていた松永と緒方。
この詐欺事件脅迫事件における公訴時効が成立した―。


いよいよ一連の事件が発覚し、事態が動く。事件を発覚へと導いた人物とは―。【パート9】へ。

 

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